工業用電気ヒーター技術の根幹の法則

高度な電気技術の根幹にあるシンプルな法則

電気ヒーターを使った加熱は、ガスや油を燃焼させる加熱と比べ、制御が容易でクリーンな加熱方法です。ボタン一つで容易にON-OFF切替ができ、正確な温度コントロールも可能です。製造現場で使用される工業用電気ヒーターともなると、高度な出力制御が求められます。このような高度な技術の根幹には、あるシンプルな基本法則があります。

その基本法則とは、皆さんご存知の「オームの法則」です。電気に関する基本的な法則で、「電圧の大きさは、電流が大きくなるほど大きくなり、電気抵抗が大きくなるほど大きくなる」事をあらわします。中学校の理科で学習するので、覚えている方もいるのではないでしょうか。この法則の発見により、今では当たり前となった電圧・電流・電気抵抗の基本的な関係が定義され、現代の電気科学の礎となっています。

 

「オームの法則」を説いたのはドイツ人の研究者であるゲオルク・オームです。幼い頃に父から数学、物理学等の教育を受け、成長して教育者として大学などで物理学の博士に従事します。教育の傍ら、独自で研究を重ねて「オームの法則」を発見したといわれています。

この「オームの法則」、実はゲオルク・オームが生まれる前の1781年にイギリスのヘンリー・キャヴェンディッシュという人が先に発見していましたが、その業績が知られたのは発見から98年経った1879年『ヘンリー・キャヴェンディッシュ電気学論文集』が出版された時でした。その間の1826年にオームによって独自に再発見・公表され、その名を冠して「オームの法則」として確立されました。

ゲオルク・オーム

ゲオルク・オーム(1789〜1854)

基本法則が成り立たないこともある

「オームの法則」は導体を流れる電気についての法則ですが、導体の材質や状態によってはこの法則が成り立たないこともあります。

「オームの法則」の電流(I)と電圧(V)の関係をグラフで表すと、電気抵抗(R)を定数とした比例関係になります(下記①)。
ところが金属は電流を流すことでジュール熱が発生し、その熱の影響で電気抵抗の値が変化しますので、厳密には電流と電圧の比例関係は成立していません。
温度による電気抵抗の変化の度合いは金属の種類により異なり、変化が少ない金属では近似的に「オームの法則」が成り立つとみなせます。

温度による電気抵抗の変化が大きい金属では、電流と電圧のグラフは下記②のような曲線になります。
電気抵抗の変化が大きい金属の例としてタングステンがあります。タングステンは白熱電球のフィラメント(発光する部分)として使用されています。電球が発光している時、フィラメントは約2,000~3,000℃もの高温になっています。先述したようにタングステンの温度による電気抵抗の変化は顕著で、光っている時とそうでない時とで電気抵抗が10倍近く違うこともあります。
タングステンは「オームの法則」の比例関係が成り立たない素材であり、このような電気抵抗を「非オーム抵抗」といいます。

 

オームの法則グラフ

①比例抵抗
電圧が高いほど電流も大きくなり
電流と電圧は比例関係にある

非オーム抵抗グラフ

②非オーム抵抗
発熱により電気抵抗が増すため
比例関係が成り立たない

高温でも電気抵抗が安定! だからステンレス

前述した通り金属は温度が上がると電気抵抗が大きくなる傾向がありますが、その度合は金属の種類により異なります。ステンレスは温度による電気抵抗変化が小さい材料で、工業用電気ヒーターの熱源として使用する場合でもオームの法則に則って出力制御することができ、非常に安定して発熱させることができます。

ステンレスを超薄型に加工して発熱体とするフィルムヒーターや面状ヒーターは、半導体製造装置など、精密な温度コントロールが求められる熱処理装置に数多く採用されています。表面を覆う絶縁材により様々な特性を付加させることができるので、幅広いニーズにマッチした電気ヒーターの提供が可能となるのです。

ステンレス箔ヒーター
【KH】