工業用熱処理炉と昇華物

「昇華」とは?

物質は、基本的に固体・液体・気体の三態を取ります。
一般的に、固体の物質を気体にするには「固体→液体→気体」、 気体を固体にするには「気体→液体→固体」という順番をたどる必要が有ります。

しかし、物質の中には液体を経由せずに、直接「固体→気体」「気体→固体」に変化するものがあります。
この状態変化を「昇華」と呼びます。

最近の化学の教科書では「気体→固体」への変化を「凝華」と呼ぶようになったそうです。
この記事では「昇華」で統一して説明しています。

固体液体気体

身近な昇華物

身近な昇華物といえばドライアイスです。皆さんも一度は目にしたことありますよね。
ドライアイスは二酸化炭素を冷やして固体にしたものです。 -78.5℃以下と極めて低温ですので、食品
の冷却などに広く利用されています。
常圧環境下では固体から直接気体に昇華して液体にはならないので、周りを濡らすこともなく、取り扱い
が簡単で便利なんですね。

温泉街でも昇華現象を見ることができます。
火山近くの温泉街ではガスの噴出孔が多くみられますが、その付近にある鮮やかな黄色い物質を見た
ことはないですか? これは火山ガス中の二酸化硫黄や硫化水素が昇華した固体の硫黄です。

ドライアイス

FPD製造における昇華

FPDとは「フラットパネルディスプレイ」の略称で、薄型で平坦なガラス製画面の総称です。
FPDには、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどがあり、TV、スマートフォン、PCなどに搭載されています。


FPD製造の際にも昇華現象が発生しています。
FPD製造の多くの工程で工業用熱処理炉が使用され、ガラス基板洗浄後の乾燥、薬液塗布後のポストベイク等の熱処理が行われます。
ガラス基板が熱処理される際に、塗布した薬液に含まれる揮発性成分が気化して多量のガスが発生します。
このガスが、熱処理炉から外部に漏れ冷やされることで直接固体となります。

これがFPD製造における昇華現象です。

FPD製品



熱処理時に発生するガスを放置すると、漏れ出て微少な粒子状となった昇華物が製造ライン内のセンサーや配管など熱処理炉周辺に付着するため、
ガラス基板の清浄度を悪化させてしまいます。 清浄度を維持するためには、高い頻度のメンテナンスが必要となります。

昇華物付着の様子

昇華物の付着した様子(配管部/ファン/フィルタ)

昇華物処理装置

工業用熱処理炉周辺への昇華物の付着を防ぐために考案されたのが「昇華物処理装置」です。

発生した昇華ガスを装置内に吸引・強制冷却し、昇華物を回収します。発生する昇華物の種類によって、処理方法(水冷・空冷等)を変えているため、様々な工程に対応可能です。

工業用熱処理炉設計においては、加熱物の物性を把握し、発生する昇華物への適切な対応が大変重要です。

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                                                                【NS】

処理装置

昇華物処理装置/昇華物が付着したフィルタ