熱を逃さない!断熱材のヒミツ【前編】

断熱材の役割

熱の伝わり方には、「伝導」「対流」「放射」の3つがあります。 (詳しくは→【電気ヒーター そもそも&あれこれ】

熱源のある特定の空間から熱を逃がさないためには、まずその空間を隔壁で仕切り、「対流」による放熱を防ぐ必要があります。
(当たり前ですが、温められた空気がどこかへ逃げないように閉じ込める!)
さらに、その隔壁が断熱材であれば、「伝導」や「放射」による放熱を防ぐことができます。

熱を逃さないために用いられる断熱材。 「伝導」や「放射」による放熱を防ぐ効果とは? 実験を通して確認してみましょう!

断熱実験やってみた!

1辺650mmの立方体の骨組みをつくり、内部に熱源として市販のホットプレートを置きました。

条件①:立方体をコピー用紙(厚さ約0.02mm)で覆う。
条件②:立方体を発泡スチロール(厚さ約10mm)で覆う。
条件③:立方体をアルミ箔(厚さ約0.02mm)で覆う。
条件④:立方体をアルミ箔(厚さ約0.02mm)と発泡スチロール(厚さ約10mm)で覆う。

条件①~④について、ホットプレートの電源を入れてから30分後に、内部温度と外部表面温度をそれぞれ測定してみます。

実験装置写真

実験装置イラスト

結果発表

早速ですが、実験結果を発表します。
それぞれの温度の測定結果は、左のグラフのようになりました。

「断熱材」といえば発泡スチロールを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。②の発泡スチロールは、内部温度が①のコピー用紙に比べて8.5℃高くなりました。外部表面温度が最も低いのが特徴的です。

③のアルミ箔も料理の際に食材を包むなど、馴染み深い素材ですね。結果は、発泡スチロールより内部温度がさらに高い58.3℃。外部表面温度が最も高いのにも注目です。

④は発泡スチロールとアルミ箔の組み合わせ。内部温度はコピー用紙より21℃も高い68.5℃! 内部温度と外部表面温度の差は30℃に達しました。

 


温度比較グラフ

各素材の断熱効果

②の発泡スチロールは、断熱材の代表格といえる素材です。その特徴は「熱伝導率」の低さにあります。
発泡スチロールの原料であるポリスチレンの熱伝導率は0.33~0.52W/(m・K)と紙の0.06W/(m・K)より高いのですが、加工され発泡スチロールになると0.03~0.04W/(m・K)と非常に低くなります。それは「発泡」という名の通り、多くの空気を内部に保持しているからです。空気の熱伝導率は0.02W/(K・m)程度と非常に低く、高い断熱性能があります。

③のアルミ箔も、内部温度が58.3℃という高い結果を出しています。
しかしアルミは金属なので熱伝導率が237 W/(K・m)程度と非常に高く、実は熱を伝えやすい素材です。内部空気の温度は伝導によって外へ逃げてしまいます。(外部表面温度が最も高いのはこのためだと推測できます。)
それでも内部を高温に維持できるのは「放射率」の低さのおかげです。アルミは熱を伝える「電磁波」を吸収しにくい(放射率が低い)性質があり、熱源であるホットプレートから放出される放射熱を吸収しにくいために、内部を高温に保つことができるのです。

④の発泡スチロール+アルミ箔は、発泡スチロールの「熱伝導率の低さ」とアルミの「放射率の低さ」を組み合わせたWの断熱効果を発揮します。
結果は前述の通り。内部温度は70℃近くに達しながら、外部温度はコピー用紙と同等の低さに抑えられています。
(外部表面温度が②の発泡スチロール単体よりもやや高いのは、高温の内部温度が若干伝導したためと考えられます。)

各素材の断熱効果のイメージ図

 

空気は断熱性能が高い、と書きました。 でも、空気が断熱性を発揮するためにはある条件があります。
それは「空気を閉じ込める」こと。
閉じ込められていない空気は、自らが流れて熱を伝える「対流」の働きによって、断熱の効果を発揮しません。
いくら空気の熱伝導率が低いといっても、真冬に裸でいると体に触れた空気の対流で体温をどんどん奪われてしまいます。
服を着ることで体の周囲に空気を閉じ込め、空気の断熱性が発揮されて体温を維持することができるのです。
(着る服が空気を通しにくい素材だったり、ダウンのように空気を多く含む素材である程その断熱効果が高いのは、皆さん体感していることでしょう。)

工業用熱処理炉の断熱材

工業用熱処理炉において、断熱材の役割は非常に重要です。
「伝導」や「放射」による伝熱で炉内の熱が外部へ逃げるのを防ぐため、断熱材など様々な方策を取り入れて、エネルギーロスを極力低減させているのです。
空気の断熱性能も利用しますが、発泡スチロールでは炉の高温に耐えられないので、使用する温度帯に合わせてグラスウール(ガラス繊維)やセラミック等を使用します。
断熱材により、省エネ化はもちろん、炉内温度を安定させて熱処理における温度精度の向上も図っています。

>>>工業用熱処理炉についてはこちら

                                         【SK】

工業用熱処理炉写真