「温かい」のは温度じゃない!?

「温かい」のは温度じゃない!?

「温度」と「熱」についてのちょっと意外なお話です。

ちょっと実験 ~温度の感じ方~

今、身の回りに金属製のモノはありますか? それから木製や樹脂製、布製のモノはありますか? 見つけたら、それぞれのモノに触ってみてください。触ったモノの温度はどのように感じましたか? これは、モノの温度の感じ方についてのちょっとした実験です。置かれた状況にもよりますが、おそらく金属製のモノは冷たく、それ以外の例えば木製のモノは金属よりも温かく感じたのではないでしょうか。

でも! よく考えてみてください。同じ室内にずっとあったモノは、全て同じ温度のはずです。淹れたての熱いお茶も時間が経つとぬるくなります。同じ室内に一定時間置かれていたモノは、全て室温と同じ温度になるのです。
(これを「熱平衡」といいます)

ではなぜ、同じ温度なのに材質によって感じ方が違うのでしょうか?
実は、人は「温度」を感じ取っているわけではありません。そう、人の肌は「温度のセンサー」ではないのです!

「温度」と「熱」について

ここで「温度」と「熱」について整理しておきましょう。

ある温度のモノがあるとします。このモノの分子は振動していて、この振動の激しさを表すのが「温度」で、分子が持つ運動エネルギーの量を表すのが「熱」です。熱を持っているほど分子の振動は活発になり、温度が高いことになります。そしてモノの温度が同じでも、サイズが大きいと分子がたくさんあるので持っている熱は多くなります。

また、同じ大きさ・重さだとしても、物質によって分子の運動のしやすさ(「比熱」といいます)が違うので、同じ温度になるのに必要な熱が違ってきます。例えば、金属の比熱は小さく水の比熱は大きいので、同じ質量の鉄と水が同じ熱の量を持っていたとしても、温度は同じになりません。

このように温度と熱は密接な関わりがありますがイコールではなく、人の感じ方に大きく関わるのは 「熱」の方なのです。

金属製と木製

 

 

 

 

温度と熱

感じているのは「熱の移動」

「熱」は、必ず温かい方から冷たい方へ移動するという性質があります(これを「熱力学第二法則」といいます。お茶がぬるくなるのもこのためです)。そして熱の伝わりやすさ(「熱伝導率」といいます)は物質により異なります。

一般的に金属は熱が伝わりやすい(熱伝導率が高い)物質です。先程の実験では、高温の手から低温の金属へ大量の熱が移動しています。これを人は「冷たい」と感じます。比較して木材は熱がとても伝わりにくい(熱伝導率が低い)ので、手からの熱が移動し難く、触れても冷たく感じないのです。

体温よりも高温のモノに触れたとき、熱が体に伝わってくると「熱い」と感じます。この場合も物質によって伝わる熱の量が違うので、同じ温度のモノでも感じ方は異なります。90°Cのお湯に入ると火傷してしまいますが、90°Cのサウナに入っても火傷しないのは空気の熱伝導率が極端に低いからです。

考察:人の熱感知能力について

「人の肌は温度のセンサーではない」と書きました。人の肌感覚は、温度計にも劣るのでしょうか?  当然そんなことはありません。
先述したとおり温度は分子の熱振動の度合いを示す尺度であり、温度計はこれを数値化してくれますが、そのモノが持つ熱量全体を示してはくれません。「温度」は熱に係る現象の一側面でしかないのです。
人体にとっては、どれだけの熱量が伝わってくるのか、あるいは奪われるのかが、外界の危険から身を守り生命を維持するために重要な情報であり、このことに特化したセンサーを進化させてきたと考えられます。人体は優れた「熱流量センサー」なのです。

熱の伝わり方と暖房機器

材質と熱の伝わり方の関係は、感じるだけではなく、よく理解しておいて損はありません。

暖房機器の中には電気毛布など人の肌に直接触れるものがあります。肌に触れる素材は、単に柔らかさや肌触りだけでなく、熱の伝わり方も十分に考慮するべきです。例えば金属製の湯たんぽはお湯を入れてすぐに温かくなりますが、直に長時間触れ続けると低温火傷をおこす危険があります。タオルで包んだり専用の袋に入れて使用するべきでしょう。

いかがでしたか?  人が感じ取っているのは「温度」じゃない。意外に思った方もいるのではないでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。